敗血症性ショックにおけるアルブミン投与の本当の意味
Journal of Intensive Care に掲載された総説論文
Martin-Loeches I, Rodríguez A, Russell L, et al. Management of endothelial dysfunction in septic shock: role of albumin administration. Journal of Intensive Care. 2026;14:1.
をもとに、敗血症性ショックとアルブミン投与について整理します。
敗血症は、感染症が全身性炎症へ発展し、多臓器障害を引き起こす重篤な病態です。従来は「血圧低下」「循環血液量不足」「輸液と昇圧剤」が治療の中心として語られることが多くありました。しかし近年、敗血症の本質はそれだけではなく、血管内皮障害(endothelial dysfunction)こそが重症化の中核であると考えられるようになっています。
血管内皮とは、血管の内側を覆う一層の細胞であり、血液と組織の境界として極めて重要な役割を担っています。正常時には、血液成分が必要以上に漏れ出さないよう制御し、凝固・炎症・血流調整を行っています。
しかし敗血症では、炎症性サイトカイン、活性酸素、細菌毒素などの影響でこの内皮細胞が障害され、さらに表面を覆うglycocalyxも破壊されます。すると、
・毛細血管透過性亢進
・血管外への水分漏出
・組織浮腫
・微小循環障害
・血管拡張
・凝固異常
・多臓器不全
といった問題が連鎖的に進行します。
つまり、敗血症性ショックとは単なる「血圧低下」ではなく、血管そのものが壊れている状態とも言えます。
そこで再評価されているのがアルブミンです。
アルブミンは血清中で最も多い蛋白であり、従来は「膠質浸透圧を保つ蛋白」として知られてきました。しかし本論文では、それ以上に多面的な生理作用が強調されています。
① 血管内への水分保持
アルブミンは血管内に水分を保持し、過剰な組織浮腫を抑える助けになります。
② 血管内皮保護作用
glycocalyxや内皮細胞の安定化に関与し、血管漏出抑制に寄与する可能性があります。
③ 抗炎症作用
炎症性メディエーターや毒素の結合・中和に関与します。
④ 抗酸化作用
フリーラジカルを除去し、酸化ストレス軽減に寄与します。
⑤ 微小循環改善
赤血球流動性や血管内環境を改善し、末梢灌流改善に寄与する可能性があります。
つまりアルブミンは、単なる“容量負荷のための輸液”ではなく、敗血症で壊れた血管環境そのものに働きかける治療選択肢として再評価されているのです。
臨床研究では、SAFE study、ALBIOS trialなど大規模試験が紹介されています。全ての敗血症患者で明確な死亡率改善が一貫して証明されたわけではありませんが、敗血症性ショック群や重症例では、
・循環動態の改善
・昇圧剤必要量の減少
・輸液総量の抑制
・予後改善の可能性
が示唆されています。
そのため現在の考え方は、「全員にアルブミン投与」ではなく、
・大量晶質液投与後も不安定
・低アルブミン血症
・浮腫が進行している
・ショック遷延
・これ以上の晶質液負荷を避けたい
このような症例で戦略的に使用する、という方向です。
獣医療でもこれは非常に重要な視点です。
犬猫の敗血症性腹膜炎、子宮蓄膿症、誤嚥性肺炎、壊死性膵炎、重症術後感染などでは、ヒトと同様に血管漏出・低アルブミン血症・循環不全が起こります。
今後の獣医集中治療では、
「何mL輸液したか」
「血圧がいくつか」
だけでなく、
血管内皮を守れているか
微小循環を維持できているか
アルブミン低下をどう捉えるか
という視点がさらに重要になるでしょう。
敗血症治療は、血圧を数字として上げるゲームではありません。
壊れた生体バリアをどう修復し、臓器を守るか。
アルブミンはその中心的存在になる可能性があります。
2026.04.20
