急性膵炎と急性腎不全 〜「もうダメかもしれない」からの回復〜
2026年より、札幌市中央区にて「アネス動物総合医療センター」として再スタートいたします。
外科・麻酔・歯科を強みに、より専門的な診療を提供するアネス動物病院、代表の石塚です。
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先日、「もう助からないかもしれない」と飼い主様からご相談をいただいたワンちゃんが来院されました。
輸液によって身体はパンパンに浮腫み、腎臓の数値も高いまま下がらず、非常に厳しい状況でした。
それでも、なんとか希望を繋げないかと、治療に取り組みました。
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急性腎不全の3つの分類
腎臓が急に悪くなるとき、私たちは大きく3つの原因に分けて考えます。
1. 腎前性:脱水やショックなどで、腎臓に十分な血液が届かなくなる状態
2. 腎性:腎臓そのものが障害されていて、点滴では回復が難しい状態(透析が必要)
3. 腎後性:尿管や尿道が詰まり、尿がうまく排泄されない状態
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診察と初期評価
当院では、以下のような全身状態の評価を迅速に行います。
• バイタルチェック:心拍数、血圧、呼吸数のモニタリング
• 血液検査:脱水や電解質の異常の確認
• 尿検査:尿比重やタンパクの有無で腎機能を評価
• 超音波検査:心臓や腎臓、尿管の状態を確認
この子は急性膵炎による嘔吐や食欲不振から脱水状態になっており、腎血流の低下(腎前性)が疑われました。
ただし、すでに数日経過していたことから、腎実質のダメージ(腎性)も合併していると判断。
さらに、浮腫が全身に認められ、循環がうまく回っていない(静脈鬱滞)可能性も高いと考えました。
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治療戦略
今回は、尿としてうまく水分を排泄させることを目標に、次のような循環管理を行いました。
1. 右心房の圧を上げない
→ ドブタミンを使用し、心拍出量を増加させ、腎血流を改善
2. 静脈還流量を維持しつつ、腎血流を増やす
→ ノルアドレナリンを低用量で使用し、毛細血管の灌流圧を確保
(※ハーゲン・ポアズイユの法則に基づく血管抵抗の調整)
加えて、輸出細動脈を収縮させ、GFR(糸球体濾過量)を上げる効果も期待します。
3. hANP(ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド)の投与
→ 正直、エビデンスは限られますが、浮腫が強くリンパ管排泄では間に合わないと判断。
利尿を促すために併用しました。
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結果として…
このような緻密な循環管理の結果、腹膜透析に進むことなく、
5日間の入院で無事に退院できました。
もちろん、これが毎回うまくいくわけではありません。
ですが、「最悪の場合は腹膜透析も実施する」という選択肢を持ちながら、
目の前の命にとって今ベストな治療を常に選び続けています。
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最後に
アネス動物病院では、緻密な循環管理・専門的な治療、そして腹膜透析などの集中治療にも対応可能です。
どんな状況でも、「助けられるかもしれない」と思ったら、ぜひ一度ご相談ください。
2025.07.03