心臓病と慢性腎臓病~その投薬、本当に必要ですか?~
アネス動物病院、獣医師の石塚です。
先日、慢性腎臓病(CKD)と診断されたワンちゃんがセカンドオピニオンで来院されました。
処方内容は、
* 利尿剤
* ACE阻害薬(ACEI)
* ラプロス
でした。
一方で当院で再評価したところ、
* 心不全所見なし
* 蛋白尿なし
* 高血圧なし
という状態でした。
さらに4月以降、
Cre 2.1 mg/dL → 3.0 mg/dL
へ上昇していました。
もちろん腎機能悪化の原因は一つではありません。
しかし今回の症例では、投薬内容が腎機能低下に関与していた可能性を強く疑いました。
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1)利尿剤は「必要なときには命を救う薬」
利尿剤は心不全による肺水腫や胸水などのうっ血性心不全において極めて重要な薬です。
しかしIRISガイドラインでも、慢性腎臓病管理において重要なのは
「適切な水和状態の維持」
とされています。
心不全が存在しない症例で利尿剤を投与すると、
* 循環血液量の減少
* 腎血流量(RBF)の低下
* 糸球体濾過量(GFR)の低下
を引き起こす可能性があります。
その結果、
腎前性窒素血症やCre上昇の原因となることが知られています。
今回の症例では心不全所見が認められず、利尿剤投与による利益よりもリスクが上回っていた可能性が考えられました。
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2)ACE阻害薬は「腎臓病だから使う薬」ではない
ACE阻害薬は、
* 蛋白尿
* 高血圧
* 心疾患
などに対して重要な役割を持つ薬です。
IRISおよびACVIMコンセンサスでは、
RAAS阻害薬の適応として主に
* 犬:UPC ≥ 0.5
* 猫:UPC ≥ 0.4
の蛋白尿、
あるいは高血圧が挙げられています。
ACE阻害薬は輸出細動脈を拡張し、糸球体内圧を下げます。
これは蛋白尿抑制には有益ですが、
脱水や循環血液量低下が存在する状況では、
糸球体濾過圧をさらに低下させ、
結果としてGFR低下とCre上昇を招く可能性があります。
今回の症例では、
* 蛋白尿なし
* 高血圧なし
* 利尿剤併用
という状況であり、腎機能保護効果よりも腎灌流低下リスクが懸念されました。
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3)ラプロスは優れた薬だが万能ではない
ラプロス(ベラプロストナトリウム)は、
* 腎微小循環改善
* 抗炎症作用
* 抗血栓作用
などを介して腎機能低下の進行抑制が期待される薬です。
特に猫CKDでは臨床研究も報告されています。
しかし、
どれほど優れた薬であっても、
十分な循環血液量と適切な水和状態が確保されていることが前提になります。
脱水や循環血液量低下が存在する状況では、
まずその是正が優先されるべきであり、
薬剤単独で病態を改善できるわけではありません。
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私たちが大切にしていること
私は、
「病名を治療するのではなく、病態を治療する」
ことが重要だと考えています。
慢性腎臓病だからラプロス。
心臓病だから利尿剤。
ではなく、
今その子の体で何が起きているのか。
その病態を理解した上で治療を選択することが、本当の意味での個別化医療だと思っています。
ガイドラインも大切です。
しかしそれ以上に大切なのは、
目の前の患者さんを診ること。
それが私たち獣医師の仕事だと考えています。
2026.06.24
